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アメコミと日本マンガのスクリーンディレクションを分析する

前回「映画『ストレイト・ストーリー』 スクリーンディレクションを考える」にてスクリーンディレクションについて分析してみたのですが
今回はアメリカンコミックと日本マンガのスクリーンディレクションについて考えてみます。
簡単に言うとスクリーンディレクションとは「画面内で登場人物は同方向(左→右もしくは右→左)に進む」ことでしたね。これは観客が混乱しないためにおこなわれ、ショットが変わった時も順守されます。また、主人公の心の動きによって変化する場合があります。

まずアメリカンコミックの代表としてバットマンを考えてみます。
なぜバットマンかというと私の人生2大推しマッツ・ミケルセンとストリートスライダーズがバットマン好きだからです。
マッツは「年老いたバットマンを演じたい」と言っていたし、スライダーズのハリーはバットマングッズを集めていたらしいし、まあ理由はさておき誰でも知っているアメリカンコミック代表としてバットマンを分析してみたいと思います。大阪コミコン2023にてアメコミが読めるコーナーが設置してあったのでその中から『バットマン:アイ・アム・ゴッサム』を選びました。画はディビット・フィンチ、肉体表現や詳細な背景などとてもうまいです。

バットマン スクリーンディレクション

画像はざっくりトレースです。バットマンの肉体表現素晴らしいですね。このページ面白いと思いませんか?コマ割りがコウモリの形になっています。印象的なページです。
「映画『ストレイト・ストーリー』 スクリーンディレクションを考える」では英語圏では左から右に進むのがポジティブという話をしたのですが、アメリカンコミックでも同じように左から右に主人公が進み、コマ割りも左から右に読み進めていきます。日本は右から左に読んでいきますから逆ですね。
私は初めてアメリカンコミックを読んだのでなかなか慣れずに読みづらかったです。
上の画像でも上段でバットマンは左から登場し右に進んでいます。下段の小さなコマでも同じですね。
主人公は左、敵は右にいて相対する構図が守られています。

バットマン スクリーンディレクション
こちらは左ページが美女とのダンスシーン、ここでも主人公は左、相手は右にいて右に進んでいくスクリーンディレクションが守られています。最後のコマは美女が左にいて、主人公は右にいますが床のパースを見るとわずかに右に進んでいることが分かります。
右のページはどうでしょう?このページ読みにくいと思いませんか?上段を左から右、中断を左から右、下段を左から右と読んでいきます。上下の隙間が少し広ければいいのに、縦に読むのか横に読むのか一瞬迷いますね。日本の漫画は視線誘導の視点で良く研究されているので、コマを読み迷うことは少ないですね。のちにバットマンと絡むことになる男女の兄弟が野獣のような強盗に襲われています。兄弟はやはり左にいて右にいる強盗と対峙しています。俯瞰のコマでもそれは守られています。

そらまめ
アメリカンコミックのスクリーンディレクション、しっかり守られてるね
うん、主人公の向いている方向とか意識したことなかったけど、こうやって分析してみると一つの大原則なんだね。スクリーンディレクションを通して、たくさんの人にストレスなく伝わることを意識しなきゃいけないね
チエ(仮)

それでは日本の漫画を見てみましょう。代表として私の大好きなゴールデンカムイで分析してみます。こちらも画像はざっくりトレースで旅路の転換点になる場面を選んでみました。尾形百之助率高めです。

ゴールデンカムイ 野田サトル
6巻 杉本一行がキロランケと合流し小樽から網走監獄に向けて出発する場面
9巻 江戸貝邸での一戦の後、メンバーが二手に分かれて月形へ向かう場面
19巻 樺太での流氷問答の場面
30巻 暴走列車地獄行きの場面

ゴールデンカムイ スクリーンディレクション
右ページ、登場人物たちはアメコミと逆で右から左に向かっています。下のコマは正面に近くてもやはり左に向かっています。
左ページ、やはり左に向かっています。
「アメコミは左から右」に向かうのに、なぜ「日本マンガはなぜ右から左」に向かうのでしょうか?
それは単純で文字の読み進め方に従うからです。

英語圏は左から右に読み進めるので、自然と絵も左から右に見ていきます。
日本マンガは文字は縦書きですから右から左に読み進め、絵も右から左に見ていきます。
主人公が右に行ったり左に行ったりしないよう、意識して登場人物の方向を設定しないと読み手にはわかりにくいストーリーになってしまします。
日本では文字を横書きにすると英語圏と同じように左から右に描くので、言われないと気付かないじゃないかな?と思います。私は栗田唯先生の講座を受講するまでは気づかなかったです。なので、意識をもってレイアウトを決めるべきだと思います。

このスクリーンディレクションはColoso.「基礎から学ぶ心を動かすストーリーボード制作」 ストーリーボードアーティスト 栗田唯 先生の講座に詳しく出てくるのでぜひ受講してみてください。

Coloso.「基礎から学ぶ心を動かすストーリーボード制作」 ストーリーボードアーティスト 栗田唯
https://coloso.jp/mediadesign/storyboardartist-kurita-jp

以前にこの漫画のトレースを30ページほどやったことがあるのですが、ゴールデンカムイは絵の密度がとても高いですね。その時はクリップスタジオに慣れる目的もあって単行本をスキャンして精密に原本とほぼ変わらないようにトレースしました。この時間がもう楽しくて。デジタル作画は絵が使いまわせることもあるでしょうが、小さなコマでも背景が入っていてものすごい作画コストだと感じます。巻が進むごとに人物のトーンのグラデーションも複雑になり、この辺はアシスタントさんがやるのかと思いますが、アシスタントさんの力量もものすごいなと思います。
「この密度で週刊連載って寝る時間あるんだろうか?」
「アシスタントさん何人態勢なんだろうか?」
「尾形の顔の作画がとっても中性的で美しい時があるけど、もしかして野田サトル先生より絵がうまいといわれている(←先生本人がおっしゃっています)奥さんが描いてる?」
「銃は3Dかな?」
「キロランケの服が大変」
「ここはモデルを使っているな」
「背景は線画抽出とトレースとの二通りあるな」
「動物専門の作画師がいるのかな?」
など、疑問が次々と湧いてきます。

そらまめ
ちょっとちょっと、また話しがズレてるよ
おっと失礼、また興奮しちゃった。ディレクションの話に戻ります
チエ(仮)

ゴールデンカムイ スクリーンディレクション
右ページ、ファンなら誰も忘れることができない流氷問答の一場面です。アシㇼパさんから暗号のカギを聞き出そうと尾形は頑張っています。冷血のくせに噓をつくと赤面するというかわいさ、切ないです。尾形はアシㇼパさんを連れ、右側ネガティブから追ってくる杉元を気にしながら左に進みます。アシㇼパさんは杉元が追ってくることを知りませんが、迷い右側ネガティブを見ています。
左ページ、クライマックスに向かう暴走列車地獄行きのシーンです。左に向かいます。地獄も左にあるようです。

どうでしょう?バットマンとゴールデンカムイを例にアメリカンコミックと日本マンガのスクリーンディレクションを見てみました。
文字の読み進め方に従い主人公は英語圏では左から右に、縦読み日本語では右から左に進むというお話でした。縦書きと横書きで読み進み方が混在する日本では意識してスクリーンディレクションを行う必要がありますね。

ゴールデンカムイ 少年 尾形百之助
実は数十年ぶりに絵を描き始めたのはゴールデンカムイを読んだからなんです。もう面白くて1週間に2~3冊づつ単行本を買って何度も読みました。そのうち週刊誌に追いつき水着の写真の表紙が恥ずかしいのでちょっと遠いコンビニに週刊ヤングジャンプを買いに走っていました。
「こんな速い展開が許されるのか?」
「こんなに自分が描きたいものをぶつけていいのか?」
「なんだ尾形百之助、こんなかわいく憐れで一生懸命な悪役がいていいのか?」
何度も衝撃を受けました。流氷問答を読んだときには眠れなかったくらいです。
それから尾形百之助を無性に描きたくなり、ノートに書きまくっていると少年尾形が割とかわいく描けたのです。

おや?かわいい、ふっくらほっぺにおちょぼ口。まだ割と描けるのか?数十年描かなくても。もしかして、ずっと考えてきた私の物語も漫画で表現できるのじゃないか?
チエ(仮)

私がマンガを読んでいた時代とはずいぶん変化し、大人が読んでも十分楽しめ、そして映画や小説以上の表現ができる漫画文化が醸成されているのだと思いました。それから一心に勉強しています。私の物語を良い状態で書き上げたいのです。

きっかけをくれた尾形百之助ありがとう。
ゴールデンカムイの中の尾形百之助の祝福は今もわからないけど、私からは祝福をあげたい。
ありがとう。

尾形百之助 ゴールデンカムイ

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