画像はトレースです。
みなさんはこの物語をご存じでしょうか?映画『ストレイト・ストーリー』、まっすぐな物語ではなくストレイトさんの物語です。
監督はあのキツつめ映画が多いデヴィット・リンチですが、この物語は一風違い優しいリンチ作品と言われています。
今回はこの映画『ストレイト・ストーリー』を分析していきたいと思います。
昔、些細なことで不仲になった兄が倒れたと聞いたアルヴィン・ストレイト老人は、不自由な体でトラクターに乗り560キロの道のりを旅して会いに行きます。
みなさんはスクリーンディレクションという言葉をご存じでしょうか?
私はColoso.「基礎から学ぶ心を動かすストーリーボード制作」 ストーリーボードアーティスト 栗田唯先生の講座で初めて知りました。
簡単に言うとスクリーンディレクションとは「画面内で登場人物は同方向(左→右もしくは右→左)に進む」ということなんです。これは観客が混乱しないためにおこなわれ、ショットが変わった時も順守されます。また。主人公の心の動きによって変化する場合があります。
これはもう、なるほど、なるほど、なるほどの嵐なんです。今までたくさんの映画を観て、オーディオコメンタリーなどを聞いたときに「?」と思ったことが腑に落ち、とても感動しました。アニメーションの講座ですが漫画を描く時にも役立つ内容がたくさん勉強できます。
Coloso.「基礎から学ぶ心を動かすストーリーボード制作」 ストーリーボードアーティスト 栗田唯
https://coloso.jp/mediadesign/storyboardartist-kurita-jp
通常英語圏(ハリウッド映画など)ではポジティブな感情(目的地に向かう)の場合、左から右に向かいます。『ロード・オブ・ザ・リング』では旅の一行は左から右に進んでいきます。逆に敵は右から左に進みます。主人公たちと対決するためです。ところがファンゴルンの森に入ると逆方向の右から左に進みます。これは森に入るのは旅の目的地の道中から外れ、ネガティブな状況になるからです。また、オーディオコメンタリーの中でエドラスの城に向かう遠景ショットで「これは右から左に向かうショットだったので左右反転したんだ」というコメントがあって、なんでそんなことするんだろう?と疑問に思ったのですがこれで合点がいきました。
2022年に『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の再上映を観たのですが、大迫力ですごく良かったです。特に音響、DVDでは聞き取れない音もあったので臨場感があり、やはり映画は映画館で観たいものです。
また『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー~ありのままで~ 」歌唱シーンでも、城から逃げ出したエルサはネガティブな気持ちで(カメラはバックショット)右から左に進み、(カメラは正面に回り込みながら)手袋をとってありのままの姿見せると決意し、ネガティブを振り切り一回転します。ここで曲調が変わり(転調っていうんですか?)、右・左・正面・上を向き「♪だってもう自由よ」で左に進みながら右を向いています(すごい!製作チーム天才!)城を作り上げ「♪これでいいの自分を信じて」で迷いを振り切り完全にポジティブとなり、左から右に進んでいきます。スクリーンディレクションを知ってこの曲を見返したとき鳥肌が立ちました。まさに秀逸、ここまで作り込むんだと驚愕しました。これが歌声・曲などと相まって観客の心に深く入ってくるのだと思うのです。
こちらはColoso.「基礎から学ぶ心を動かすストーリーボード制作」 ストーリーボードアーティスト 栗田唯先生の講座で詳しく紹介されているのでぜひ受講してみてください。
『ストレイト・ストーリー』のスクリーンディレクションはどうでしょうか?兄に会いに行くという旅はポジティブなはずなのにストレイト老人は右から左に進んでいきます。動画の初めのショットも正面なようでトラクターのタイヤを見るとわずかに左を向いてますね。通常のポジティブな向きとは逆に進むのは、「体の悪い老人の長旅がこれからどうなるだろうか?」という不安感をあおるための意図的な演出だと考えます。う~む、う~む、う~む、なるほどなるほど、英語圏の人は左から右がポジティブと本能的に刻まれているので、老人が気持ちよく旅をしていても不安で心配な気持ちが湧いてくるというわけです。スクリーンディレクションって深いですね。
それでは漫画はどうでしょうか?アメコミと日本の漫画についてのスクリーンディレクションを分析してみましたので、そちらも読んでみてください。
それではブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則』をもとにストーリー展開を分析していきます。
ブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則』については上のページを参考にしてください。
ビート・シートに沿って考えるとこの映画は「疎遠になった兄に会いに行く物語」なのでのジャンルは金の羊毛になります。
大事な第一ターニングポイントは壊れたトラクターの代わりに新しいトラクターを買う場面です。
これでやっとロードムービーが始まります。
第2ターニングポイントは神父から兄のことを知っていると聞いた場面です。
これで結末へ向けて動き出します。
それではまとめてみましょう。
ブレイク・スナイダー・ビート・シート
脚本のタイトル:ストレイト・ストーリー
ジャンル:金の羊毛
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:ジョン・ローチ メアリー・スウィーニー
1.オープニング・イメージ 主人公は部屋で倒れ病院に行く
2.テーマの提示 兄が倒れたことを聞き会いに行くことを決める
3.セットアップ
4.きっかけ トラクターで出発
5.悩みの時 初めのトラクターが壊れる
6.第一ターニング・ポイント 新しいトラクターを買う
7.サブプロット サイクリングの若者やシカを轢いてしまった女性と会う
8.お楽しみ 家出娘と会う
9.ミッド・ポイント エンジンがオーバーヒートする
10.迫りくる悪い奴ら 修理代を吹っ掛けられる
11.すべてを失って 修理代を負けさせる
12.心の暗闇 戦争経験を思い出す
13.第二ターニング・ポイント 神父から兄のことを知っていると聞く
14.フィナーレ 兄との再会
15.ファイナル・イメージ 兄と星空を眺める
詳細は本を読んでみてね。
ストレイトさんが旅路の中で様々な人と出会い、かける言葉がグッときます。
神父との出会いで兄のことを知っていると聞き、ストレイトさんは話します。
「一緒に座って星を眺めたい、遠い昔のわしらのように」
ファイナルは星空で終わります。娘と見上げた星空、旅の中で出会った人との星空、兄と見上げる星空が想起され最後に涙が1滴、ポロリと落ちるような素敵な作品です。
どうぞ皆さんも見てみてくださいね。
この目のきらきらした素敵なおじいさんを演じたリチャード・ファーンズワースは公開翌年に亡くなったそうです。ご冥福をお祈りしています。